Case Corini / カーゼ・コリーニ
大量のエネルギー消費を伴う現代の大規模な農業に対して異を唱え、“持続可能な”農業の重要性を地質学を専門とする学者の立場から説き、その証明の場として、家業でもあったブドウ栽培とワイン造りを行っています。畑では年2−3回のボルドー液の散布以外は一切の農薬を使用せず、無施肥、不耕起、無除草を実践、樹齢の高い樹から、圧倒的な凝縮感、熟度のブドウを収穫している。セラーでも、人為的関与はできる限り避けるようにしており、長期間の醗酵・マセレーションを行い、できるだけ樽の移し替えも行わず、醸造からボトリングまでのどの過程においても酸化防止剤を使用しない。
とこんな感じで、畑でもセラーでも“ないない尽くし”の感のあるロレンツォ、「絶対やらないんだ!」という感じに肩をいからせてやっていないのではなく、論理的な観点から“やらないこと自体が理にかなっている”と判断しやっていないように見受けられます。先人の教えの中にとても深い含蓄があることを経験から学び、そこに科学的な裏づけも取る・・・。僕が当初、過熟気味なんじゃないかと思っていたブドウの熟度も、彼の考える“完熟”の定義が他の人たちと全然違うところにあるということが彼と話すことで理解できました。
一般的には、糖分量と糖分と酸のバランスなどから収穫の時期を判断するのですが、彼は極端な話、種しか見ていません。ブドウを食べ、種を噛み砕いた時にカリッとナッツのような食感の時、種は茶色になっています。それが、種自体が次世代を残す準備ができた、成熟しきったという証で、ブドウ(樹であり、果実であり)が、とあるサイクルを終えようとしているサインなんだと言います。ですので、彼のワインはヴィンテージによってアルコール度数がまちまちだったりしますが、それこそヴィンテージの天候的、気候的特徴が結実したものなわけで、毎年糖分(つまり出来上がりのアルコール度数)を見ながらブドウの収穫のタイミングを決めるよりも、判断基準にブレがないように思えるのです。
「健全なブドウをセラーに持ち込めたのなら、ヒトがその後ですべきことは必要最低限で済む。それよりむしろ、“健全なブドウ”をセラーに持ち込む事の方が、遥かに難しい・・・。」
ミクロ(微生物環境、生物環境、畑の植生など)&マクロ(近隣の森林、低木類、モノカルチャーではない耕作環境)両視点から見て、多様性に満ちた調和の取れた環境と、それらを健全な状態で維持するための農業的アプローチの果てに、ヒトは健全なブドウを賜る事ができ、そして健全なブドウにこそ(ブドウが)本来内包すべき個性(土地、ブドウ品種、年)が余すことなく表現される・・・。
「調和こそ最も大切な事だ」とロレンツォは言います。
彼の言う調和とは、畑の中でなら自生する草花、微生物など、そしてもっとマクロの視点でだと、畑の中ないし、隣接する場所のブドウ以外の樹木(森林)やブッシュ(低木)、他の作物の畑、牛などの動物の存在などを指しています。
環境がモノカルチャー化しすぎると、調和が崩れ、そこから病害虫などが蔓延しやすくなるそう。では、その調和を維持するためには・・・彼が実践していることを列挙します。
微生物叢(そう)の調和を壊したくないから、トラクターなどの機械を畑に入れず、昆虫や小動物の棲みかとして畝間の草を刈らないし、耕しもしない。畑の周りの低木類は、小鳥(虫の数調整役!)にとって格好の棲みかだから、そのまま残す。
偉大なワインは偉大なブドウから、偉大なブドウとは、深く、調和のとれたブドウで、高樹齢の樹がもたらす。樹齢が高くなると、生るブドウの数は自然と減り、1房に生る実の数も減り、粒と粒の間に隙間ができやすくなるので、湿気が溜まりづらくなり、結果健全なブドウができやすくなる。
ブドウ樹に、より長く命を全うしてもらいたいのならば、農薬の類は使わないに越した事は無い。そして剪定も、大々的な外科手術的なものでなく、切り傷程度のものとすべき。(樹木化した部分を切ることをできるだけ避け、枝を落とすだけの剪定にとどめる)
夢にもヒトが“土づくり”をできるなどと思わない事。土は、大地がもたらすもの。とある豊かな大地を、人が畑として利用するというのは、自然銀行口座内にある元本を切り崩すことに他ならない。元本は、ある程度大きな額ではあるが、利子の金額よりも人が消費するスピードの方が速く、必ず元本割れし、遅かれ早かれ残高は尽きる。人が心掛けなければいけないのは、“できるだけ浪費をしないようにして、残高ゼロの日を遅らせる事”。残高がゼロ近くになったら?利子の積み重ねで元本に戻るまで、口座をとある期間(数年〜数十年?)休ませる。
調和を意識した畑の維持ができたのなら、ブドウ樹は長生きし、莫大な手間と費用のかかる、頻繁にブドウ樹の植え替えをする必要がなくなり、その結果リアル元本も切り崩さずに済む。
調和がとれていれば、農薬にも頼らずに済む(彼の場合、ボルドー液を年2−3回撒くらしいのですが、ピエモンテ州常識で言ったら、ゼロに等しい回数です)。だから、すべて手作業と言っても、かかる人件費はそこそこに抑えられる。機械を導入すれば、効率は上がりますから、結果の絶対的な量も増えるかもしれないが、その分エネルギー(ガソリンなど)もたくさん消費しなければいけない。機械への投資額の元を取ろうと思って、たくさん使えば、壊れて修理代もかかり、機械自体の寿命も短くしている・・・。
沢山投資して沢山の収入を得る事と、ミニマムの投資(それもヒトへの!)で、それなりの対価を期待できるプロダクトを作る事。果たして、どちらの方が”効率的”なのでしょうか?そしてどちらのほうが”持続可能”な考え方なのか?
ロレンツォが僕たちに伝えたい事とは、ワインの味わいの素晴らしさなどというミクロな話ではなく、”持続可能な”農業の産物であり、圧倒的な個性&品質を持つ彼のワインをもってして、”持続不可能な”現代農業&消費社会&人類に警鐘を鳴らすという、マクロの視点に立った意見なのだと思います。(以上、輸入元情報より引用)
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